自称美人に困った話
「私は美人だから」って言う美人じゃない人にこれまでぱらぱらと出会って来ましたが、中でも特に印象的な2人の女性がいます。
自分を卑下して自信を無くすより、俺ってやっぱカッコいいな、私って本当にキレイだわ、って思ってた方が性格も明るくなるしハッピーだし絶対その方がいいとは思うんですよ。
私だって失敗した福笑いみたいな顔してますけど、両親に可愛い可愛い言われてすっかり洗脳されたんで一時期はハリウッド進出を考えたほどですし。
日本どころか地元ですら無名なのに。
…なんつって。
ははははは。冗談ですよ、ご安心を。そんなに哀れみの目を向けないで。
とにかく、ブスって何?その基準はアンタが勝手に決めたんやろ。私は美人やねん!俺はカッコイイねん!って、誰がなんと言おうと自分の内も外も好きでいるべき。
…なんですが。
たまに、自分だけで満足してりゃいいのにわざわざ全面的に己の美しさ?をアピールしてくるタイプがいらっしゃいましてですね、それがその2人の女性なんですけど、何が印象的って、彼女達の外見じゃない個性がまたキョーレツで忘れられないんですよ。
まぁ、私もウチではいつも「ママより綺麗なママなんていないのよ」なんてブラックなジョークを撒き散らして、家中が容赦無いブーイングの嵐ですが、先の彼女達は至って真面目に真顔で真剣に言ってくるんです。
それがキョーレツな印象となって私の記憶にこびり付いてるんですよね〜
あ、なんか私、いっつも、私は、私は、ばっかり言ってますよね、ほんまにもぅ、すみません。
自分大好き。
って事でちょっと私の話し、聞いて下さい。
中学生時代の友達Aちゃん
彼女はややポッチャリ気味の地味な女の子でした。
私から見ると決して可愛くも美しくも優しくも明るくもないという、まるで私と同じタイプの彼女(クソカス言うな!!)には悩みがありました。
あまりにもモテすぎるという悩みが。
「あぁ、また男に告白されたわー。マジでキモいねんけどー。今月これで何人目やねん。面倒くさいわー。」
何の前触れもなく突然話し始め、
はぁー
とため息をつくAちゃん。
「え、ほんまに!?」
無言でシラける周りの友達に気付かず、心底驚きAちゃんの話しに食い付く私。
え、すごいやん!
うちら全くモテないグループやのに?
私ってそんなモテモテ女子と友達やったん!?
「Aちゃん、すごいやん!!そんなに告白されまくってんの?」
「うん。昨日まで彼氏もいてん。別れたけど向こうが未練タラタラやねん。マジでうっとうしいわ。」
すごい!私なんて告白された事すらないのに、彼氏いた事すらないのに、うっとうしいほど男子にモテるとは!
当時はヤンキーの全盛期で、モテるのはヤンキーか学校でもズバ抜けた美男美女くらいでした。
まぁ、ヤンキーがなぜだか美男美女しかいなかったので、ヤンキー=美男美女 美男美女=ヤンキーみたいな感じでしたけどね。
本当に美男美女だらけでしたよ、うちの学校のヤンキー達。
学校内ではちょっとしたアイドルみたいに人気ありましたからね。
あんなに揃いも揃って美男美女だらけだと、ヤンキーになる為のオーディションでもあったんかって思うくらいです。
って、だいぶ話が逸れてしまいましたが、とにかくそんな見目麗しいヤンキーが多いうちの学校で、見目麗しくないAちゃん(お前が言うな!)がモテまくってるっていうのが、なんかもうすごく嬉しかったんです。
すごい!すごいよ、Aちゃん!
でかした、でかした!本当によく頑張ったね!
うちらの希望の星やんか!と。
ところで、Aちゃん、どうやって男子達をメロメロにさせてるん?なんか秘技でもあるん?
不思議に思った私はド直球に聞いてみました。
「なんでそんなにモテるん?」と。失礼にもほどがあります。
するとAちゃんは言いました。
鼻で笑いながら。
「さぁ?どこがいいんやろな。わざわざ隣のクラスから覗きにきたりするくらいやから、顔くらいしかないよな。」
へっ!?
「ほんまどうしよー。面倒くさいねん、男って。あぁイヤやなー。整形してブスになろっかな。」
えっ!?
えーっ!?
何何どーゆーこと?
あれ、ちょっと、みんな何も反応なし?って事は、あ、あぁ…そうか。
私の目が…美的感覚がヘンなんやな。
Aちゃんて、可愛いいんやな。知らんかったけど。
みんなにはそう見えてるって事か。そういう事やな。
知らんかったけど、そういう事なんやな。
隣のクラスから男子が顔見に来るほどアンタ可愛いかー!?とかなんとか次から次に湧き出る色んな疑問に無理やりフタをしてAちゃんの話しを信じる事にました。
だって周りにいた友達が誰一人として異議を唱えなかったですから。
自分の美的感覚が狂ってるという事にして心の葛藤に決着をつけたその日から、毎日毎日Aちゃんのモテ過ぎる悩み相談に乗るのが日課となりました。
おかしいなー、どっからどう見ても、どこをとってもモテ要素なんて無いんやけどなー、なんて余計なお世話な考えを必死に打ち消しながら。
ある日、いつも一緒に悩みを聞いていた友達と2人きりになった時、その友達がそーっと聞いてきました。
「ドラ子ちゃんさぁ、Aちゃんのあの話し信じてるん?」
「え、信じてるよ?」
人を疑う事を知らない私。いや、ちょっとは疑ったけど、友達なんやもん。もちろん信じるよ。
「あれ、全部ウソやねんで。」
「えっ!?そーなん?」
「あの人さ、もう昔からあんなんばっかり言ってはんねん。小学生の時から。だからみんな陰でめっちゃバカにしてはんねん。だってヘンやろ?モテる訳ない顔やし、男子と一緒にいるとこ見た事もないねんで。まさかドラ子ちゃん本気にしてたん?」
当時私には仲良しなグループが2つあって、いつも一緒にいるメイングループとAちゃんがいるグループをその時の気分によってフラフラ渡り歩いていました。
だからAちゃんが虚言癖のせいでグループ内で嫌われてるって気づいてなかったんです。
確かに、Aちゃんが男子と喋ってるところも、一緒にいるところも見た事がなく、それどころか陰口叩かれてるのを小耳に挟んだ事があったので、モテモテ武勇伝がウソくさいと薄々勘付いてはいたものの、やはりそうだったのかとはすんなり受け入れられませんでした。
だってかわいそうでしょ、見ていて辛いでしょ、妄想の中で生きてるなんて。
「そうなんや…。なんかかわいそうやな…。なんでそんなウソついてしまうんやろう。」
友を哀れみ、うなだれる私にその友達は言いました。
「かわいそうじゃないで。Aちゃんめっちゃ性格悪いから。ドラ子ちゃんもいつかわかると思う。」
そのいつかはすぐに来ました。
「あぁ、マジで男子って面倒くさいわー。マジでブスになりたいわー。ドラ子ちゃんが羨ましいわー。」
腹立つ!勝手に嫌われとけ!
その日から、Aちゃんとは目が合えば挨拶するだけの、ただの知り合いになりました。
バイト先で出会った先輩
高校時代のバイト先に、負のオーラをまとった3つ年上の先輩がいました。
毎度毎度ちょっと遅れて来ては絵に描いたような仏頂面をしていた彼女は、メイクのノリが悪い日は特に不機嫌でした。
そんなメイク乗りが悪いある日のこと。
「あ、先輩!おはようございます。」
先輩に話しかけるのは私くらいだったので、いつもなるべく明るく話しかけていました。
「近寄らんといて。」
「え、どうかしましたか?」
「もういいから!今日は顔見られたくないねん!」
先輩のこんな態度は日常茶飯事。
「え、なんでですか?」
そこまで言われて引き下がらないウザい後輩を一刻も早く蹴散らしたい先輩が答えました。
「顔がヤバいから」
メイク乗りが悪いとは言いますけど、私から見たらたいしてその差がわかりません。
「春と夏は顔が浮腫むからこんな顔やねん。秋と冬ならイケてるねんけど。」
「え、先輩、季節によって顔がかわるんですか!?」
「うん。春と夏と季節の変わり目は浮腫みと肌荒れでこんな顔やけどな。これは私のほんまの顔じゃない。ほんまの顔はこんなもんじゃない。」
「え、じゃあ、ほんまの顔ってどんな顔なんですか?」
「よく言われるのは…」
近寄るなとか言いながら結局喋ってくれるのが先輩の憎めないところ。
まんざらでもない様子で得意気に話出しました。
「秋は、永作博美。」
へっ???
「冬は、安室奈美恵。」
……?
「え、先輩、何がですか?」
「だから!秋は永作博美に似てる顔になって、冬は安室奈美恵になんねん!」
え、季節によってそこまで変わる!?
ここで気づけばいいものを、バカな私はまたも信じてしまい、あろう事か先輩の地雷を踏んでしまいました。
「先輩、そんなに浮腫んでるんですか、大変ですね。じゃあ本当は美人なんですね。」
なんてバカなんでしょう。失礼にも程があり過ぎます。
その時の先輩の鋭い眼光で何か嫌な予感がしました。
次の日、先輩はかなり濃い目のメイクで現れました。
そして…
「はぁ〜、ダルいわ〜。マジでダルい。」
ブツブツ言いながらニヤニヤしています。
不思議に思って見ていると、どうしたんですか、と聞いてもいないのに喋り出しました。
「アイツらなんやねん、マジで。通りすがりにほんまに。『え!?あれ、永作博美ちゃうん!?』とか言って来たあの男2人なんやねん、マジで。おかげでみんな振り返ってこっち見て来て大変やわ、マジで。違うっちゅーねん。永作ちゃうっちゅーねん。ジロジロ見てくんなっちゅーねん。」
…
…
ヤバい。
どうしよう、この先輩、Aちゃんと同じタイプや…
失礼な物言いをした後輩を懲らしめる為の自作自演でしょう。
なんと春なのに永作博美顔にフライング。
明日は安室奈美恵ちゃうっちゅーねん、とか言い出しそう。
もちろん違います。
先輩の顔は永作博美でも安室奈美恵でもないし1ミリも似てません。
カスリもしてません。
先輩は先輩。
なんで先輩が他の誰とも話さないのか、その時初めて理解しました。
話してもらえないんですね…。怖いから…。
内心密かに秋冬を楽しみにしていましたが、先輩は夏になる前にバイトを辞めてしまいました。
安室奈美恵バージョンの"ちゃうっちゅーねん"聞きたかったな。
自分は美人て思ってもいいし口に出してもいいと思う。
なんなら皆んなそう言うようになれば世界はもっとハッピーになると思う。
頭の中でいっぱい妄想してニヤニヤしてもいいと思う。
でも、妄想の世界にどっぷり浸かりすぎたらなかなかリアルに戻ってこれへんのちゃう?
他の誰かになんてならなくていいやんか。
なんて、最近急にこの2人を思い出し、妄想を本気にするなんて、なんだかかわいそうな人達やなぁと勝手に哀れんでいたら、
「ねぇ、私ね、よく男の子達に『結婚して下さい』って言われるんだー。」
突然、ご機嫌な様子の6歳長女が言いました。
「え?すごーい!!いち姫ちゃんモテモテやーん!誰が結婚してって言ってくれたん?」
人生で1度たりともモテ経験がない母が大喜びで娘に聞くと、
「タンジロウとイノスケだよ。」
???
「誰それ?」
「鬼滅の刃だよ。」
…
…
妄想かよ。
や、ヤバイな…。
ちょ、どうしよう…
あー今からちょっと、"子ども 妄想 将来"でぐぐるので今日はこの辺で。
今日もくだらなくて長い話を聞いて頂きありがとうございました。
それでは、また♪