渡る世間はマウントばかり〜家族編〜
「あ、ドラ母ちゃん、男の子育てるの初めてやね?男の子は大変よ。女の子と違って。」
ある日、二太郎を見ていた姑が突然言い出しました。
得意気にニヤつきながら。
姑とは何かと嫁にマウントを取りたい生き物。
いやいやいやいや。
初めてですよ。男の子。
知ってはりますやろ。おかーさん。
「男の子はね、何でもかんでも口に入れるから」
1歳やったら男女関係なく何でもかんでも口に入れますやろ。
「男の子は動きが俊敏やから追いかけるのが大変よ。女の子みたいに考えてたらあかんよ。」
甥っ子も俊敏でしたわ。
近所の女の子も俊敏でしたわ。
だから個性とちゃいまっか。
「男の子はね、もうヤンチャやから親は振り回されてばっかりやからな。外出たら絶対目離せへんし。」
小さい子から目なんて離しまへんで。しかも外で。男女関係ありまへん。
「男の子はほんまにヤンチャ!みんなそうなの!もう大変やで!?若い母親なら追いつくけど歳とってたら追いかけるのキツいでー!」
どないしましょ。
とりあえずいらんもの(脂肪)外して身軽にしとかなあきませんわな。
「男の子やと女の子と違って追いかけなあかんから太ってるヒマないからな、痩せると思うよ。」
え。心の声聞こえましたんか?
太いとか細いとか余計なお世話でっせ。
「まぁ、男の子は大変やけど上がいち姫みたいな大人しい女の子やから楽やわな。知り合いの人なんて42歳で下の子産んで上の子はまだ3歳でその上2人とも男の子やから大変やで。かわいそうに。ドラ母ちゃんは楽できて良かったでほんまに。」
ほんま楽させてもらってますわ。
ありがたいことですわ。
おかげでどんどん大きくなってますわ。私が。
「まぁ、言うといたげる。男の子は大変やで。ほんまに。」
うわー。こわいわー。
ほんまどないしょー。
女の子も大変ですけどー。
「男の子大変大変て、オカンに何がわかんのやな。ドラ父(旦那)みたいなモヤシみたいな男しか育ててへんくせに。あれくらいの男ヤンチャでもなんでもないで。うちの子らくらいのレベルがヤンチャやねん。あんなモヤシ育てるん楽勝やわ。あんなモヤシ!」
痺れを切らして参戦した義姉。
あんなモヤシ!
と連発されたうちの旦那は彼女の目の前にいます。
あのー、お義姉さん?"あんな"ではなく"こんな"とちゃいます?ここにいるんですから。
まぁ小さい事ですけどちょっと気になりましてね。
あぁでも、男の子マウントから助けてくれはってありがとうございます。
「うちの子達はほんまにヤンチャで、いち姫ちゃんより病弱やし旦那の帰りは遅いし、しかも旦那はモヤシ(うちの旦那で義姉の弟)みたいに育児手伝ってくれへんかったからなー。ほんまドラ母ちゃんは楽やでー。二太郎くんもうちの子らみたいにヤンチャなら大変やけどモヤシの子やから大人しいんとちゃうか。」
うわー。お義母さんよりはるか上からのマウティングですやんか。
ヒュードカン!ヒュードカン!
マウティング爆弾が来たぞー!逃げろー!
おい、モヤシ!さっきから何黙って聞いとんねん!
嫁の顔色が曇り出した事に気付いたモヤシがしばらく考え反撃に出ます。
「いち姫が赤ちゃんの時はほんまに眠れずに苦労したよな、俺ら。」
あろう事か過去の話題を蒸し返すモヤシ。
おい!何考えてんねん!マウティング好きな人らに苦労話なんかしたら火に油やろーが!!
しかも俺はグースカ寝とったやないかい!
「あぁ、確かそうやったなー。ドラ母ちゃん眠れへん言うてたよな。私が赤ちゃんの時もっとよく泣く子やったからオカン全然寝てなかったで。半年くらい。ドラ母ちゃんより寝てなかったわ。」
え、お義姉さん、まさか。まさか覚えてはるんですか?自分の生後半年までの事?
すごい!天才やったんですね!
「そうそう。ドラ母ちゃんより寝てなかったわ。」
お義母さん…よく生きてはりましたね。
当時の私の平均睡眠時間2時間やったんですけど…ってまた小さい事気にしてすみません。
あ、そろそろ帰りますか。そうですか。ほなサイナラ。
はぁ〜。疲れた。
笑顔作っとくのほんま大変。接客業みたいやわ。
いや、ほんまによくこれだけ人に色々言えるもんですな。
びっくりやわ。
おい、お前も覚えとけよ、モヤシ!
そして数日後。
「お姉ちゃん、最近なんかしんどいわ。毎日疲れる。」
育児に思い悩んで電話をかけて来たアメリカ在住の妹。
ここは姉としてしっかりフォローしてやろうと思いきや、口から飛び出した言葉は….
「何よ。何がしんどいの?アンタのとこの旦那めちゃくちゃ協力的やんか。片付けして洗濯して風呂洗いして子どもと遊んでくれる上にうちより給料いいやんか!しかも子ども達は風邪ひとつひかへんし良く食べるし最高やんか!うちなんか風呂洗いと子どもの面倒見るしかしてくれへんねんからさ!子どもは病弱やし偏食やしめちゃくちゃ大変やわ。アンタは楽やんか!ほんまにうちの方が絶対しんどいわー。」
苦労マウティングの嵐!
「…そうやね。うん。頑張る…」
自分がマウントした事実に気付いたのはより元気をなくした妹の声を聞いた時でした。
あぁ最悪。自分。
そこで気付きました。
マウントする人に必ずしも悪気があるわけじゃないのだと。
羨ましかったり、自分の苦労話をする事で相手を励まそうとしていたり、そこにはいろんな思いがあるのだと。
だから笑顔で聞き流すのが良いのだろうなと。
気付かせてくれた妹に、お詫びを兼ねて渾身の言葉を送りました。
「ファイト。」
妹は蚊のなくような声でありがとうと言い電話を切りました。
それから3日後、妹が気になり電話してみると、
「あぁ、もう大丈夫!!旦那さんがね、気晴らしに買い物連れて行ってくれて2万円のワンピースとか買ってくれてペンダントも買ってくれたから元気出たー!!お姉ちゃんも旦那さんに買ってもらったらー?気分晴れるよー!」
「う、うん…」
うちはね、ユニクロですら高級ブティックに見えるほどお金ないのよ…。
いい旦那さんで良かったね…。
「日本に置いて行った私の服着ていいからね!ブランド物やから質はいいからー!」
姉の窮状を察したのか、嬉しい事を言ってくれる妹。いつも私を思いやってくれる、優しい妹。
「あぁいいよ、いいよ。服ならあるし。」
心配させまいと遠慮して見せたものの、気になって、後日妹の家のクローゼットを物色しました。
どれもこれもオシャレで素敵な服ばかり。
嬉しくなって着てみると、
どれもこれもパッツパツのピッチピチ。
チャックは上がらずワンピースは短くなりブラウスのボタンは閉まりません。
無理矢理閉めたスカートのホックはブチッと音を立ててちぎれ落ちました。
「ちょっとー!!アンタの服全部小さいやんか!」
恥も外聞もかなぐり捨てて妹に電話。
「あれ、お姉ちゃん着てみたん?あーはっはっは!小さいに決まってるやんか。私はMサイズでお姉ちゃんはLLなんやから!!」
あーはっはっは!!
どうやら私はまんまと妹のワナにハマったようです。
電話の奥から聞こえる妹夫婦の笑い声。
妹には優しい義弟は私には悪魔です。
「もうー、高い服やったのにー!!伸びたんちゃうのー!?」
「そういえばお姉ちゃん、前に私のデニムジャンパー貸してあげた時、キツすぎて二の腕の内側に内出血できたよねー!?笑笑!」
ひゃーはっはっはっ!!
いつまでも響く悪魔の笑い声。
これこそが正真正銘のマウティング。
私の心はズタボロですが、妹が元気になって何よりです。
今日もくだらない話を読んで頂きありがとうございました。
それでは、また♪